ブラジル出張の概要
南米最大の経済規模を誇るブラジルは、鉄鉱石などの資源、航空機産業、そして巨大な消費市場として日本企業にとって極めて重要なビジネスパートナーです。
日本からブラジルへの直行便はなく、米国や欧州、中東を経由して最短でも約25〜30時間を要する長距離移動となります。まずは、ビジネス拠点となる主要都市と、2025年現在の最新の入国要件を確認しましょう。
ビジネス渡航で想定される主な都市・空港
ブラジルのビジネスは、経済の中心地であるサンパウロを中心に展開されます。渡航先に応じて、主に以下の空港を利用することになります。
| 都市名 | 特徴 | 主要空港 |
| サンパウロ (São Paulo) | 南米最大の経済・金融都市。日系企業の大半が拠点を置くビジネスの心臓部。 | グアルーリョス国際空港 (GRU) |
| リオデジャネイロ (Rio de Janeiro) | 石油・ガス、造船業、観光の中心地。 | アントニオ・カルロス・ジョビン国際空港 (GIG) |
| ブラジリア (Brasília) | ブラジルの首都。政府機関や外交関連のビジネスで訪問される。 | ブラジリア国際空港 (BSB) |
渡航における注意点
日本から米国経由(ニューヨーク、ダラス、マイアミ等)で入国する場合、米国での入国審査とESTA(電子渡航認証)の取得が必須となります。乗り継ぎ時間には十分な余裕を持たせてください。
日本人出張者のビザ要件
ブラジルと日本は相互にビザ免除措置を導入していますが、これはあくまで「報酬を伴わない短期滞在」が対象です。業務内容によっては、事前に適切なビザ(査証)を取得しなければなりません。
短期商用(30日以内)のビザ要否と条件(ビザ免除・滞在許可日数)
現在、日本国籍者が30日以内の短期商用目的でブラジルへ渡航する場合、ビザ(査証)を取得する必要はありません。
ビザ免除の条件
- 活動内容: 商談、会議・セミナーへの出席、市場調査、契約の署名、顧客への挨拶などの「報酬を伴わない業務」に限られます。
- パスポートの要件: ブラジル入国時に有効なパスポートを保持していること。
滞在許可日数
- ビザ免除による滞在期間は、通常1回につき最大90日間まで認められます。
- ただし、12ヶ月の期間内で合計180日を超えて滞在することはできません。30日以内の出張であれば十分な余裕がありますが、頻繁にブラジルへ渡航する場合は、過去1年間の累積滞在日数に注意が必要です。
30日超・就業目的・駐在の場合に必要なビザの種類の概要
滞在が長期にわたる場合や、単なる「商談」を超えて実務作業を行う場合は、目的に応じたビザ(居住許可)の取得が義務付けられています。
ブラジル国内の企業に対して、日本の会社から技術指導、修理、機械の設置、保守作業などの「実務」を行う場合に必要です。たとえ1週間程度の作業であっても、商用(ビザ免除)での入国は認められないため、必ずこのビザを申請してください。
ブラジルの現地法人や支店に管理職または専門家として長期間派遣される場合に必要です。
ブラジルの企業と直接雇用契約を結ぶ場合に必要となる居住許可です。
ビザ情報を確認すべき公式窓口
ブラジルのビザ規定は頻繁に変更されることで知られています。必ず以下の公的機関で最新の要件を確認してください。
駐日ブラジル大使館(東京)/ 領事館(名古屋・浜松)
管轄地域ごとの公式なビザ申請窓口です。お住まいの地域によって管轄が分かれているため、近隣の領事館を確認してください。
ブラジル外務省 (Itamaraty)
査証に関する根本的な規定を管理しています。
外務省 海外安全ホームページ(ブラジル)
ビザ免除の継続状況や治安上の注意喚起が確認できます。
出張管理者へのアドバイス
出張者が「技術指導」に近い業務を行う場合、商用(ビザ免除)で入国させると不法就労とみなされるリスクがあります。業務内容を事前にヒアリングし、疑わしい場合は必ず専門のビザ代行業者や領事館へ確認を求めてください。
渡航前チェックリスト(企業・出張者向け)
ブラジル出張を成功させるためには、書類の不備をなくすだけでなく、現地の治安や通信事情に合わせた装備を整えることが不可欠です。
企業(管理者)側で準備・確認すべきこと
法務・総務担当者は、出張者の安全確保とスムーズな入国のために、以下の項目を網羅してください。
- 英文またはポルトガル語の出張証明書: 入国審査で目的を問われた際、「会社の指示による商用渡航である」ことを証明する書類。
- 米国ESTAの取得確認(米国経由の場合): 乗り継ぎだけでもESTAの申請は必須です。有効期限も必ず確認してください。
- 配車アプリ(Uber等)の法人アカウント設定: ブラジルでの移動は安全面からUber等の配車アプリが推奨されます。
- 危機管理マニュアルの共有: 治安に関する注意事項や、緊急時の連絡フローを出張者に周知してください。
出張者個人が準備すべきこと
- クレジットカード(複数枚): Visa、Mastercardが主流です。スキミング対策として、ICチップ付きのものを複数枚用意し、保管場所を分けてください。
- ブラジル用電源変換プラグ:ブラジルのコンセントは「タイプN(3ピン)」が標準です。また、電圧が都市によって「110V/127V」と「220V」が混在しているため、PCや充電器がマルチ電圧対応か確認してください。
- モバイルWi-FiまたはeSIM:治安上、路上でスマートフォンを頻繁に出すのは危険ですが、移動中の地図確認などは必須です。常に通信できる環境を確保しましょう。
- ダミー財布・防犯グッズ: 万が一の強盗対策として、少額の現金を入れた「渡すための財布」を用意しておくのが現地の知恵です。
- 常備薬: 抗生剤や整腸剤など。ブラジルは日本と衛生環境が異なるため、使い慣れた薬が役立ちます。
ブラジル入国手続きの流れ(到着空港での動き方)
日本からのフライトは、米国や欧州などの経由地を経て、グアルーリョス国際空港の第2または第3ターミナルに到着するのが一般的です。長旅の疲れから注意力が散漫になりやすいため、事前のイメージトレーニングが重要です。
1. 入国審査(Polícia Federal / Passport Control)
到着後は「Imigração / Immigration」の表示に従って進みます。
- 列の選択: 「Estrangeiros(外国人)」の列に並びます。
- 提示書類: パスポートを提示します。以前必要だった入国カード(紙)は現在廃止されており、デジタル管理されています。
- 主な質問: 渡航目的(Negócios / Business)、滞在日数、滞在先(ホテル名)
- スタンプの確認: 審査が終わるとパスポートにスタンプが押されます。滞在許可日数が正しく(通常90日)記載されているか、その場で確認してください。
2. 手荷物の受け取り(Baggage Claim)
モニターで便名を確認し、預け入れ荷物をピックアップします。ブラジルの空港では、荷物の取り違えや盗難を防ぐため、出口で手荷物タグのチェックが行われることがあるので、タグは捨てずに持っておきましょう。
3. 税関検査(Alfandega / Customs)
「Bens a Declarar(申告あり)」または「Nada a Declarar(申告なし)」のゲートに進みます。
- 免税範囲: 携帯品(身の回り品)以外に、合計1,000米ドル相当を超える物品をブラジルへ持ち込む場合は申告が必要です。
- 注意: 業務用の機材や試供品を大量に持ち込む場合は、事前に「e-DBV」というオンライン申告を行っておくとスムーズです。
4. 到着ロビーと安全確保
ゲートを出ると到着ロビー(Arrival Hall)です。
- 重要: ロビーには非正規のタクシー運転手(客引き)が多数いますが、絶対に無視してください。
- 安全対策: ロビーに出た瞬間からスマートフォンを不用意に操作しないよう注意し、事前に決めておいた移動手段(予約済み送迎や公認タクシー等)の乗り場へ直行してください。
管理者へのアドバイス
初めてブラジルを訪れる出張者の場合、空港でのピックアップトラブルが最も懸念されます。現地の提携企業による送迎を依頼するか、空港公認の「Guarucoop(グアルコープ)」タクシーのカウンターで先払い予約するよう指示してください。
空港から市内までの移動手段
サンパウロ・グアルーリョス国際空港(GRU)から市内中心部までは約25〜30kmですが、渋滞が激しいため所要時間は1時間〜2時間と幅を見ておく必要があります。ビジネス利用では、以下のいずれかの手段が推奨されます。
【最も推奨】空港公認タクシー(Guarucoop)
初めての渡航や、安全を最優先したい場合に最も推奨されるのが、空港公認の「Guarucoop(グアルコープ)」です。
- 利用方法: 到着ロビーにある専用カウンターで目的地を告げ、事前にクレジットカード等で支払いを済ませます。
- 料金目安: 市内中心部まで約160レアル(約4,500円)〜 ※行き先により固定料金。
- 特徴: 車体が白地に青いラインで統一されており、身元が保証されたドライバーが運転します。ぼったくりや強盗のリスクが極めて低く、領収書の発行もスムーズです。
【利便性重視】配車アプリ(Uber)
ブラジルではUberが非常に普及しており、ビジネスパーソンの一般的な移動手段となっています。
- 利用方法: 空港内の無料Wi-FiまたはeSIMを使用し、アプリで手配します。第2・第3ターミナルそれぞれの到着階外に、Uber専用の乗り場(Ponto de encontro)があります。
- 料金目安: 約80〜120レアル前後(交通状況による)。
- 注意点: 路上でスマホを見ながら車を待つのは危険です。必ず建物内で配車を完了させ、車が到着する直前に乗り場へ移動してください。
【コスト重視だが注意が必要】空港連絡列車(CPTM 13号線)
空港と市内を結ぶ鉄道も運行されていますが、ビジネス出張での利用は慎重に判断すべきです。
- ルート: 空港駅から「Luz(ルス)駅」などへ接続。
- リスク: ターミナルから駅までシャトルバス移動が必要な点や、大きな荷物を持っての移動はスリの標的になりやすい点、到着駅周辺の治安が非常に悪い(特にルス駅周辺)点から、単独での利用はおすすめしません。
ホテル送迎・専用車(事前予約)
企業の管理者が最も安心できる選択肢です。現地の取引先や宿泊先ホテルに専用車(Transfer)の手配を依頼しておけば、到着ロビーでネームボードを持ったドライバーが迎えてくれます。
管理者へのアドバイス
サンパウロの渋滞は世界的に有名です。夕方のフライトに合わせて空港に向かう場合、通常1時間の距離が3時間かかることも珍しくありません。帰国時の移動は、余裕を持って出発の5時間前にホテルを出るよう出張者に促してください。
ブラジルのホテル相場
空港から市内までの移動手段
サンパウロのホテル価格は、クラス3または4で15,000円~20,000円程度となります。
| 平日 | 休日 |
| クラス3 | ¥13,057 | ¥14,071 |
| クラス4 | ¥21,659 | ¥19,442 |
【2026年最新】世界の主要25都市ホテル相場|海外出張の宿泊費目安リスト
滞在中の注意点(ビジネス慣行・ルール)
ブラジルのビジネス文化は、非常にフレンドリーで情熱的ですが、その裏には特有のルールやマナーが存在します。
「関係性」を重視するビジネススタイル
ブラジルでは、契約内容と同じくらい、あるいはそれ以上に「信頼できる人間か」という人間関係が重視されます。
- スモールトークの重要性: いきなり本題(商談)に入るのではなく、家族のこと、サッカーのこと、現地の印象などの世間話から始めるのが一般的です。
- 対面主義: メールや電話よりも、直接会って話をすることを好みます。会食(ランチやディナー)の誘いは、関係構築の絶好の機会と捉えましょう。
「ブラジル時間」への理解
時間に対する感覚は、日本に比べると柔軟です。
- 10〜15分の遅れ: ビジネスの場でも、相手が15分程度遅れてくることは珍しくありません。ただし、自分(訪問側)は時間通りに到着しておくのが賢明です。
- 長期的な視点: 意思決定に時間がかかるケースが多いため、根気強くフォローアップを続ける姿勢が求められます。
会食のマナーと「シュラスコ」
- ランチがメイン: ブラジルではディナーよりも、12時〜14時頃のボリュームのあるランチ商談が好まれる傾向があります。
- シュラスコ: ブラジル料理の代名詞であるシュラスコ(肉料理)の店に誘われることが多いです。お腹の具合を調整しておくのも一つのマナーです。
厳戒態勢が必要な「治安対策」
サンパウロやリオデジャネイロでの滞在において、以下の防犯ルールは「絶対に」守ってください。
歩きスマホは厳禁
路上でスマートフォンを出していると、ひったくりの標的になります。地図を見る際は、必ず建物の中に入ってから確認してください。
「金目の物」を隠す
高級腕時計、宝飾品、ブランドバッグなどは、ビジネスの場であっても移動中は身につけないのが基本です。
万が一、強盗に遭ったら
絶対に抵抗してはいけません。 相手は武器を持っている可能性が高いため、大人しく指示に従い、用意しておいた「ダミー財布」などを渡して、命を守ることを最優先してください。
ジェスチャーの注意点
「OK」サインに注意
親指と人差し指で輪を作る「OK」のサインは、ブラジルでは卑猥な意味や相手を侮辱する意味になるため、使用を避けてください。賛成や肯定を表すときは「親指を立てる(サムズアップ)」を使います。
管理者へのポイント
出張者の安全を確保するため、滞在先は「多少高くても、治安の良いエリア(サンパウロならパウリスタ通り周辺やイタイン・ビビ地区など)の、セキュリティがしっかりしたホテル」を指定することを強く推奨します。
出国時の手続きとオーバーステイ対策
ブラジル出張の締めくくりとして、スムーズな出国と、コンプライアンス遵守のための滞在日数管理について解説します。
1. 出国手続きの流れ
- 空港への到着: サンパウロ(グアルーリョス)等の主要空港は非常に混雑し、出国審査やセキュリティチェックに時間がかかることが一般的です。出発の3〜4時間前には空港に到着しておくことを強く推奨します。
- 出国審査(Polícia Federal): パスポートを提示し、出国スタンプを受領します。
- 免税申告: 高価な電子機器などを持ち込んで一時輸入の手続き(e-DBV等)を行っていた場合は、出国時に申告が必要な場合があります。
2. オーバーステイ(不法滞在)のリスクと対策
現在、日本国籍者は90日以内のビザ免除が適用されていますが、これを「1日でも」超えると厳しいペナルティが科せられます。
- 滞在制限: 「12ヶ月の期間内で合計180日以内(かつ1回の滞在は最大90日まで)」というルールを厳守してください。
- 罰金とペナルティ: 滞在期限を超過した場合、出国時に日割り計算による高額な罰金(1日あたり100レアル程度〜)が科せられるほか、次回の入国が一定期間拒否されるリスクがあります。
- 滞在延長の手続き: 万が一、業務の都合で90日を超える場合は、期限が切れる前に連邦警察(Polícia Federal)の事務所へ出向き、滞在延長申請(Prorrogação de Estada)を行う必要があります。
3. 米国経由で帰国する場合の注意点
往路と同様、米国を乗り継いで帰国する場合も、有効なESTAが必要です。また、米国内での預け入れ荷物のピックアップが必要になるケースがあるため、乗り継ぎ時間には十分な余裕を持ってください。
参考リンク・公式情報
駐日ブラジル大使館(東京)
ビザ要件や入国規定に関する日本国内の公式窓口です。
外務省 海外安全ホームページ(ブラジル)
治安、感染症、ビザ免除措置の継続状況が日本語で確認できます。
在ブラジル日本国大使館
現地でのトラブル発生時の連絡先や、邦人保護に関する情報が掲載されています。
グアルーリョス国際空港 (GRU) 公式サイト
サンパウロの空港設備や、公認タクシー等のインフラ情報を確認できます。